既にムシできない名作である『Grounded』を大人に遊んで欲しい

自分でも吐き気を催すほど寒いタイトルだが、『Grounded』という素晴らしい作品を前にしては仕方がないという気持ちである。

 

『Grounded』はミクロアドベンチャーよろしく、全長1㎝ほどまで小さくなってしまった少年少女が、広大な家の裏庭で獰猛な節足動物と戦いを繰り広げるサバイバルオープンワールドゲームである。

 

本作はまだゲームプレビュー版であるため、回避不可能な理不尽バグや、草が生えているだけで虫すらいないエリアなどが散見されるが、それ補っても余りあるほど素晴らしい要素に富んだ作品である。

 

 

時は2020年、食物連鎖ピラミッドから転落した人類。

 

序盤は素手でも殴り倒せるダニやアブ、攻撃さえしなければ無害な働きアリしか出てこないので、無意味に草を刈ったり朝露を吸ったりマッシュルーム(幻覚効果は無い)で腹を満たすだけの牧歌的な内容であった。

 

大体周辺の安全性を確認したところで、やはり我々は道具の扱いに長けた霊長類なので、手斧や石槌、スコップ等で資源を収集して、簡易的な家屋の建築に着手した。

 

日本中どこでも見ることができる草(カヤツリグサみたいなやつ)が数えきれないぐらいそこら中に生えているので刈りまくり、それを壁として設置することができる。とりあえず囲って、ドアとか天井は後から考えようという算段だった。

 

壁の一部を崖を利用することで節約しようとしたのだが、これが大きな失敗だった。早い話、崖ギリギリに壁を設置することができず、どうやっても隙間ができてしまうのだ。そして、気づくとお世辞にも家とは言えない囲いの内側を働きアリが闊歩していた。

 

初めてアリを殺した。

 

アリさんは我が家に置かれたストレージの中身を漁り、食べ物を盗んでいく習性がある。いや、盗んでいくというは、あくまで人類の所有権的視点から生まれるもので、あっちからすれば「あら、こんなところに美味しそうなのがあるじゃない」という湘南マダムのデパ地下試食スタイルだ。

 

自分が弱肉強食だけがルールの大自然に放り出されたことも忘れて、怒りに任せてアリさんを撲殺してしまったのだが、この時はまだあんなことになるとは予想だにしなかった。CMの後、筆者の身に衝撃の展開が訪れる。

 

 

夜にめちゃくちゃデカい兵隊アリと働きアリが我が囲いに大挙して攻め込んできて死んだ(オチがクイック)。

 

どうやら先ほどの働きアリを倒した時、もう一匹のアリを逃したため、仲間をつれて復讐に来たようだ。

 

ご存じの方もいらっしゃると思うが、アリのアゴの力は人間に換算するとハルクホーガンのマジ殴りを上回る威力がある(筆者調べ)。雑草を地面に刺しただけの壁は瞬く間に壊され、食料やアイテムが入ったストレージやクラフト台、リスポーン地点でもある葉っぱの寝具まで徹底的に破壊された。「蝶のように舞い蜂のように刺す」という比喩表現があるが、今後は「蟻のように敵の所有物は全て破壊」と表現しようと思うまで蹂躙されつくした。

 

何度か降りて戦ったが無意味だった。幸い初期リスポーン地点が近かったので、生き返っては石と草を拾い槍を作って特攻したが本当に無意味だった。そうであるから、筆者は目が真っ赤になり怒り狂うアリさんたちの破壊行為の一部始終を遠くから茫然と眺めているしかなかった。

 

夜が明ける頃には食料は奪われ、数枚の壁と散乱したアイテムだけが残った。自然界を生き抜く大先輩に徹底的にしごかれた。住居侵入、器物破損、窃盗、傷害致死死体遺棄、ここがアメリカの死刑廃止州なら懲役100年はくだらないだろう。

 

人間は学習能力が高いので、壁を2重3重に増強した。しかし、我々の敵はアリさんだけではなかった。

 

 

クサカゲロウは、2㎝前後の小さな羽虫でトンボの親戚的なやつである。そのクサカゲロウの幼虫は大量のアブラムシやハダニを食べることで知られ、益虫として重宝されているらしい。しかし、この世界での我々はそのアブラムシやダニと同等で、この幼虫と目が合うと100%襲われるのだ。

 

まず見た目がめちゃくちゃえぐい。そして理由や訴状もないまま集団で襲ってくるのだ。アリさんの襲撃に備えていた我が囲いは、それよりも更に攻撃的なクサカゲロウの幼虫によって又しても破壊されつくしたのだ。

 

 

人間は学習能力が高いので、崖の上に家を移すことにした。何とかして粘土を集め、おおよそ草よりは硬いであろう土台を作り、草壁を施し、更にビンラーディンの隠れ家よろしく、家の周囲を壁で囲い二段構えの防衛体制を取った。

 

ただ、序盤では粘土は見つけづらく、延べ床面積は2畳だった。目が覚めると筆者は絶句した。家の中に件の幼虫が普通にいた。ちょっと吐きそうになった。しかし、こちらには地の利、つまり粘土台の上に立っているので、一方的に槍で倒せるぞという慢心があった。数秒後、幼虫の牙によって土台は崩落した。妙にオートセーブが多いゲームだなと思っていたが、非常に納得した瞬間であった。

 

「時を戻そう」筆者の心の中の松陰寺も賛同してくれた。人間は失敗から学ぶ生き物ではあるが、一応、もう一度土台の上から戦ってみたのだが、思ったよりたくさん幼虫が湧いていたので、もう一度時を戻した。

 

考えた結果、まず家の壁を自分で破壊し、次に外壁のドアを開けて幼虫を引き付けながら逃げる作戦を実行した。皆さんの予想に反して作戦は成功した。そして家は半壊した。

 

池(に見える水溜まり)の周辺には粘土が沢山湧いているという学びを経て、粘土を好き放題収集して家を増強した。

 

アザミには「独立」や「復讐」などの花言葉があるらしい。こと本作においてアザミのトゲは、矢とトゲトラップの制作に欠かせない重要なアイテムの一つである。

 

現状のバグの中でも結構ヤバいものの1つに、「アリが壁や物理的距離を無視してストレージを漁る」というものがある。壁を何重にしようが、何階建ての家を作ろうが働きアリはお構いなしにストレージにアクセスして食料を盗んでいくのだ。令和のルパンは裏庭にいた。

 

翻って、筆者も一端の人類なのでアリの窃盗パターンは熟知していた。彼らは必ずストレージに一番近い壁から遠隔アクセスしてくる。それを逆手に取って、その壁の前にトゲトラップを設置したのだ。こうすれば、空き巣被害に遭う前にアリを刺殺することが可能である。なんて面白いゲームなんだ…筆者は感心しきっていた。

 

それを嘲笑うかのようにアリは窃盗を繰り返した。このトゲトラップのダメージ判定は触った時に1回だけチクっとなるだけなので、最初1発以外はダメージを与えられないのだ。窃盗に夢中(夢虫?)のアリさんを背後から撲殺したものの、どうすんだよコレ、囲いの中もいっぱい置いちゃったじゃん…。ビデオゲームをやり過ぎると結果を予測して行動しすぎてしまうことがしばしばある。策士策に溺れるの典型パターンだった。

 

そんな筆者を救ったのが誘因トラップだった。ちょっと遠出すると落ちている花びらで作れるお花のトラップ。攻撃性は無いが、とにかくアリが群がってくる。本当にそれだけなのだが、周囲のアリたちはお花の前に立ちすくみ何もしなくなるのだ。なんかヤバイ煙出てんじゃないかと心配になるが、こうして序盤から悩まされたアリさんマークの窃盗団から解放されたのであった。

 

 

槍や弓でなんとかして狂暴な兵隊アリも倒せるようになった。はやり脳の容量が多いものが勝利するのだ。兵隊アリから採れるアイテムでアリ防具とアリ武器(モンハン感あり)を作ると世界が一気に広がり始めた。

 

初めて見たときデカすぎて尿漏れしそうになったテントウムシや「目が合ったら即死は避けられない蜘蛛」を簡単に殺して見せたカメムシを倒せるようになっていたのだ。そうやって調子に乗っているとケツから酸を噴射する虫に秒殺されたり、新たに建てた家の中に蜘蛛が入ってきて瞬殺されたりするのだ。

 

筆者は現在できることはほぼやり尽くしたが、これ以上はネタバレ不可避なのでここで筆を置きたい。

 

 

繰り返すが本作はまだゲームプレビュー版なので、回避不可能なバグが多くあるが、それに遭っても「仕方ないな」で済ませられる自分がいる。それほどにこの裏庭での冒険は非常に刺激的で、同時に考えさせらることも多い。

 

プレイヤーは虫たちの世界にお邪魔しているにも関わらず無差別に虫たちを殺し、無秩序に自然を破壊し資源を貪り、テリトリーを壁で囲い家を建て、過剰なまでに武装し狩りを効率化していき、何かに指示されているかのように生態系の頂点に立とうとしてしまうのだ。

 

目の前を横切る無害で無力な虫を気分次第で殺すことも生かすこともできる。

 

子供も遊べる牧歌的なゲームの表情をしているが、内包されている哲学的問は最も忘れがちな普遍的なものであった。大人こそこの作品をプレイして欲しいなと思いながら、筆者今日も裏庭を走り回っている。