木戸衣吹と日本語ラップ

個人的に日本語ラップの原点といえば、吉幾三さんだと思っている。

 

そう、幾三さんの大ヒット曲『俺ら東京さ行ぐだ』である。

 

近年では、TBSの『水曜日のダウンタウン』にて「吉幾三俺ら東京さ行ぐだと同じ状況の村 現存する説」で最注目されたことでもおなじみである。

 

私が幾三さんを推している理由は、定期的に聴いているから、これに尽きる。年間でも必ず1回以上は聴いている。これだけ古今東西の音楽が溢れかえっている時代でも、年1回以上というのは驚異的な数字であることに議論の余地はないであろう。

 

 

さて、この話自体どこでするか悩んだが、あえてここでしていきたいと思う。

 

木戸衣吹さんと言えば、声優界において、20歳までに演じた主役の数が日本トップレベルであることでお馴染みである。その中でも特に筆者の思い出深い作品がアニメ『精霊使いの剣舞』である。

 

本作においては、アニメそのものよりも、メインヒロインを演じた声優5人によって結成されたユニット「にーそっくすす」の方が、今も筆者の記憶に色濃く残っている。

 

数あるにーそっくすすの楽曲の中でも特に異色だったのが『KN33SOXXX』である。キャラソンでラップというのは、かなり衝撃的だった。

 

もちろん、ラップを取り入れたアニソンというのは昔から少なからず存在していたし、世代的には『ポケモン言えるかな?』とかは、かなりの強めのそれだったと思う。

 

しかし、好きなグループの曲、好きな声優の曲でラップとなると、かなり見え方も印象も違うもので、産まれ初めてライブで聴いたラップの曲も『KN33SOXXX』だったため、かなり衝撃的なナンバーとして記憶されている。

 

この『KN33SOXXX』という曲は、元々はCherry Brownというラッパー兼トラックメーカーの『にーそっくす☆』が原曲であり、こっちはリリックもビートもかなり重め(婉曲表現)である。そのため、原曲と比べて、アニソン向けに綺麗に作り直したんだなという感じがする。

 

大本の曲がだいぶヒップホップしているので、リマスターされた『KN33SOXXX』もそのソウルが感じられるのだと思う。それ用に書き下ろすのではなく、既存のヒップホップをにーそっくすす用にアレンジしたのはかなり良かったと思う。

 

というのも、世の中にはヒップホップっぽい曲、ラップっぽい歌詞やフロウの曲はかなりあって、正直それらは結構な確率で滑っている感じが凄い(当社調べ)。そうであるから、骨太ラップを支柱に作った『KN33SOXXX』はかなり良質な出来だった。

 

にーそっくすすは他の楽曲もかなり良かったし、曲作りに対する選球眼は目を見張るものがあったと今でも思っている。

 

 

それでようやく木戸さん演じるクレア・ルージュ a.k.a. クレア・エルステインのパートの話だが、非常に良い。当時木戸さんはまだ高校生だったように記憶しているが、間違いなくキャラがラップをしているようにしか聴こえなかった。

 

ライミングは甘めでビートも早くないので、難しくやっている感じでもなかったし、とにかく自然なのである。ライブでも手でYo Yoやっていて(一般的なヒップホップのステレオタイプな仕草)楽しそうだった。

 

 

この次点で木戸さんのラップはかなり様になっていたのだが、思い返してみると、デビュー当時からそれっぽいことはやっていたのではないかという仮説が思い浮かんできたので、話が前後してしまうが、更に回顧してみたいと思う。

 

 

懐古厨的には、まず最初に、木戸さんの衝撃のヒロインデビュー作であるアニメ『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』のエンディングテーマ『Lifeる is LOVEる!!』と、同作のラジオのテーマソング『LO♡ブ-ラ♡VE コンプレックス』が思い起こされる。

 

『Lifeる is LOVEる!!』は、同作のヒロインを演じた声優4人によって歌われており、歌詞の一部でライミングしていたり、サビ以外がセリフ調であったりと、かなり「ソレ」のニオイをさせている楽曲である。

 

木戸さんと一緒に歌っているのは、喜多村英梨さん、茅原実里さん、下田麻美さんであり、声優界きっての歌うまでもある彼女らに囲まれながらも、存在感を失うことなく力強く歌っているので、今聞くと非常にエモーショナルな気分になる。

 

 

演じる姫小路秋子として歌った初のキャラソン『LO♡ブ-ラ♡VE コンプレックス』もかなりセリフ口調よりで、あえてこうすることで歌唱というハードルを下げたのではないかと推察される。

 

しかし、口語になったことでやや譜割りが詰め詰めのところもあり、早口言葉に近い部分もいくつかある。ラップまでとはいかないが、めちゃくちゃ薄っぺらい歌詞でありがちなJ-POPもどきのキャラソンより何京倍も良い楽曲に仕上がっているのではないかと思う。

 

それもそのはず、作詞者が筆者の大好きなTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND松井洋平氏であるからである。やっぱりTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなんだよなぁ。

 

そういうわけで、精一杯頑張ってこじつけてみると、デビュー初期の楽曲からかなりその潮流を見せていたことがわかる。

 

 

さらに、翌年に出演したアニメ『帰宅部活動記録』で、演じる安藤夏希として歌ったキャラソン『女の子の法則』でもその潮流を垣間見ることができる。

 

この曲もメロの部分がややセリフっぽい仕上がりなのだが、Aメロでは小節の終わりを毎回「◯◯って」で脚韻している。また、サビ部分の「フリル スリル モラル メール」という「ル」の脚韻は、同作では特に人気の高い「しりとり回」で出てくる「る責め」というテクニックを彷彿とさせるニクイ演出である。

 

また、一見普通のキャラソン風味なのだが、強めにハイハットシンバルの4打ちビートが入っており、やや「ソレ」感を見て取ることができる。これには筆者も思わず横ノリしてしまう次第である。

 

 

 

それからなんやかんや3,4年ぐらいあって、一番衝撃だったのが、木戸さんが山崎エリイさんと組んでいる(2017年11月9日現在)声優ユニットevery♥ing!のアルバム『Colorful Shining Dream First Date♥』に収録されている『ヒロイン』という曲である。

 

これまでのこじつけが嘘のような、正真正銘ラップ曲である。ありがとう。

 

『ヒロイン』は、AメロBメロサビという形ではあるのだが、どちらかというと、バースとコーラスで構成されているように感じられる。さらに終盤にはフリースタイルを取り入れ、あえての落ちサビのような部分を取り入れ、サンプリングで弾みを付けて、もう一度コーラスに戻るという面白い作りである。

 

『ヒロイン』というだけあって、1人の女の子としての片思いの恋愛感情を、2人が声優であることになぞらえて、自分を女優に見立てて歌いながら、およそ2人のリアルな日々の生活感を溶け込ませた技巧的なナンバーである。

 

リリックでは頭韻も脚韻も下品になりすぎないレベルで程よく散りばめられており、完全押韻の「眉間にシワ」と「遺伝子にさ」はまだR-指定も踏んでないのではないかと思う[要出典]

 

2番の後には、トレンドとしてフリースタイルバトルパートがあり、2人が世の中の誰かと戦っている。おおよそ2人のリアルな思いが込められた言葉なので、メタ的な面白さがある。特に木戸さんは言い方に喜怒哀楽があり楽しんでる感じが凄いように見受けられる。

 

ラップ色を強くしすぎないためか、Cメロではコード進行が打ち込みのビートからピアノになり、メロもマイナーになる。ここでちょっと湿っぽく落ち込むのだが、その後が非常に良い。

 

急にドラムビートのみになって「笑い飛ばしてバース蹴っ飛ばす」という、RHYMESTERの『B-BOYイズム』のMummy-Dパートのサンプリングが取り入られており、これがアクセントとして上手く決まっている。更にその直後が「ライツ カメラ アクション」なのも、かなり日本語ラップの教科書的な曲に仕上げたことがわかる。

 

 

どうしても2人を比べてしまうのだが、全体的にやはり木戸さんの方が良いフロウを持っている思う。セリフになり過ぎず、歌になりすぎず、何よりちゃんと楽しんでラップしているのがよく分かる。

 

以前からラップに近似した楽曲を歌っていた木戸さんだが、本人のノリの良さ(?)も相まって、非常に良い仕上がりである。集大成と言っても良いのではないかと思う。

 

 

この影響を受けてか、先日行われたevery♥ing!のライブツアーの青森公演では、ソロパートで幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』を歌ったらしい。

 

以前から木戸さんが同じ青森県出身の大スターとしてしばしば名前を出していることはあったが、このタイミングで同郷のスターの日本語ラップナンバーを歌ったのは、『ヒロイン』あってのことなのではないだろうかと、在宅なりに思考をめぐらしている今日このごろである。

 

 

木戸さんは、昨年放送されたアニメ『とんかつDJアゲ太郎』で、辛口な選曲で知られるDJ唐沢シオリを演じていた。同作をイメージして作られたevery♥ing!の『HELLO, NEW WORLD!! 』はテクノとEDMを混ぜたような感じで、非常に筆者好みの曲で大変嬉しかった。

 

自分の好きな人が好きなタイプの楽曲を歌ってくれるというのは、至上の喜びであり、『HELLO, NEW WORLD!! 』の時の悦びを『ヒロイン』で再び味わえるとは思わなかったので、自分は非常に恵まれているなと思った次第でもある。

 

 

ということで、個人的には、木戸さんはラップをするスキルとセンスを磨いてきながら、良質の経験を積んで来たのではないかと思う。在宅なりの希望としては、ソロでのラップ楽曲の制作やそういうキャラクターを演じていただければこれ幸いだと思う。

 

 

 以上、木戸さんと日本語ラップの話である。

 

ここまで読んでくれてありがどう。

 

peace out